ぬか漬けにおさらばしてしまっていた。
ぬか床は凍らせてしまえば状態にもよるが一年くらいもつらしい。
少しの間、家を離れることがあったので冷凍保存しておこうと思ったが、自分の性分を甘く見ていた。
一昨日までの数ヶ月間、ぬか漬けのことを一切考えない生活を送っていた。
もちろん一度も考えなかったわけではない。
冷凍庫を開けるたびそのスペースのほとんどを占めるぬか床を見ては、申し訳ない気持ちになり、また今度と扉を閉めていた。
冷凍というのはあまりに便利すぎる。
昔の人は冷凍技術がないために氷をわざわざ遠くから運んでいたという話も聞く。
ありがたさも感じつつ冷凍庫からぬか床を取り出し、俺は解凍を待った。
解凍されたぬか床の蓋を開けるとぶっ飛ぶ臭いがした。
シンナーの臭いだ。
何も俺がぬか床にシンナーを入れるような外道野郎というわけではない。
過剰発酵が原因らしい。
とはいえ凍らしているのに発酵なんてするのか。
少し水っぽくなっていたので菌が繁殖しやすい状態になっていたのだろう。
解凍した半日の間に発酵が進み溜まっていた臭いが出たのかもしれない。
塩が少なくなっているのも原因らしい。
どちらにせよ長い冷凍を越えたぬか床は少し入れ替えておきたい。
近くに米屋があるので生ぬかを貰いに行くことにした。
どうせなら何か漬けたいと思い先にスーパーに行く。
そのスーパーで、ぴったりの塩がお買い得コーナーにあったのでどうせならと買ってしまう。
帰りに米屋に行くと少し顔馴染みなので特別に少しのぬかを無料でもらえた。
ありがとうございます。
3分の1程ぬか床を捨て、お湯と塩と生ぬか、殺菌のために輪切りの唐辛子を入れてしっかり混ぜる。
きゅうりを二本漬ける。
半日経って、夜に一本取り出して食べたがいわゆるぬか漬けの酸味が無いような気がする。
一本残して、明日食べてみる。
塩もまだ少ない気がしたので足しておいた。
もしかすると、このぬか床は完全なふり出しに戻ってしまったのかもしれない。
だとしても、そこまで残念では無い。
夏はよく漬かるそうだからまだまだこれからだ。
俺は長男としてそう思う。